2012/12/29

今年印象に残った本

2012年12月29日

今年も残り少なくなってきました。引退したら本は買わず、図書館にしよう、と思いながらまだ引退していないこともあり、今年も気がついたら本の山がまた一段と増えてしまいました。その中で印象に残った本を上げます。


「エンジェルフライト」佐々涼子

この本は第10回開高健ノンフィクション賞を受賞した作品なのでご存じの方も多いかと思いますが、国際霊柩送還(この語は登録商標らしいですが)のルポです。いや、すさまじいというか、頭が下がると言うより、手を合わせて拝みたくなるような仕事ぶりです。社長が陣頭指揮をする会社ですが、社長の身体が持つのかな、と思います。電車の中では、読めない本です。


「中国化する日本」与那覇潤

誤解を招くようなタイトルですが、この「中国化」とは経済体制が中国に似てくること、それも共産主義ではなく、自由放任経済という意味です。中国は宋の時代に自由放任経済に移行しており、世界がやっとその先進国中国に右に習えになってきた、という話です。市場原理主義者が聞いたら小躍りしそうな本ですが、世界は自由放任経済に必ずなる、そして歴史は終わる(そこから動くことはない)、無駄な抵抗は止めてそうなった時の対策を考えよ、と言う本です。この流れは専門家では常識だそうですが、果たして本当にそうでしょうか?

「人は自由に競争したがる」と良く言われますが、小生が見たところ、競争したがっているのではなく、勝ちたがっているというのが本音のようです。だから、ゲームやレースに小細工します。経済でも、勝ち組はずっと勝ち続けられるようにルールを変え、さらにはゲーム自体を開かないようにしてしまいます。そして富は集中し、一部の富裕者だけによる支配が始まります。それが経済だけではなく政治にまで及ぶと、これは中世の始まりです。そして、暗黒の中世に突入し、長い長い時間の後多くの血が流れて民主化が始まることになるのでしょう。歴史は終わらずに、繰り返すのです。それまで地球が持てば、ですが。

「お金は寂しがり屋で集まりたがる」と言われるように、富は集中する傾向があります。そのためには集まる方向に何らかの規制をかける必要があるのですが、かけ過ぎると「規制強化」で経済が停滞してきます。流れの中に船を一点に止めるような難しい操作になるのですが、世界が中世化するのを防ぐためにも(事実、アメリカの一部では中世化が始まっているようです)、そうするのが政治でしょう。


「官邸から見た原発事故の真実」田坂広志
「東電福島事故、総理大臣として考えたこと」菅直人

あの大震災後の東電福島原発の事故の時、一番危なかったのは4号機でした。定期点検のため使用中の燃料が取り出され、言わば地獄の釜のふたが開いている状態だったからです。全電源懐失となれば容量の小さい燃料保管プールの水などあっという間に蒸発し、圧力容器など無いむき出しの状態でメルトダウンが起こり、辺り一面に放射性物質をまき散らすことになります。そうなることが予想されたため、アメリカは80キロ圏内にいる米国人を避難させました。さすが危機管理能力に優れたアメリカ、4号機が定期点検中で、定期点検中が一番危ないという情報をちゃんとつかんでいたのでしょう。
しかし「偶然」工事用プールの撤去が遅れていたため、その水が流れ込んで4号機の燃料はその後の外部注水まで持ち、4号機ではメルトダウンは起こりませんでした。これはまさに「奇跡」としか言いようがありません。

4号機がメルトダウンし、1号機~3号機でも東電が当初計画していたように「撤退」という名の現場放棄をすると、強制退避区間は半径170kmに及び、これは栃木県、茨城県、及び宮城県のほぼ全域に達し、避難希望を認める半径250km圏になると、首都圏がすっぽり入ってしまいます。菅首相は夜、ずっとこうなったらどうするかのシミュレーションを続けていたそうです。奇跡の工事遅れと、菅首相が東電に怒鳴り込んだためにこの事態は起きなかったわけで、ひょっとすると菅首相は世界を救った英雄なのかもしれません。ただあのときに言った台詞がまずかったです。「撤退したら、東電はつぶれます」ではなく、「日本はつぶれます」と言うべきでした。撤退しなかったために東電がつぶせなくなり、原発作業での偽装請負の隠蔽や、保証金支払いの値切り倒しが続いています。

自衛隊ヘリによる放水に関する見方は、意外でした。あれはやっている人は命がけの割には効果は少なく、どちらかというとパフォーマンスなのですが、そのパフォーマンス(それも世界に示したパフォーマンス)が効果を奏し、それ以降アメリカが本気になったというのですから、政治の世界は難しいものです。

余談ですが小生は原発は徐々に廃止するという派で、そのためには再稼働は認めるべき(再稼働しないと、即時原発0になってしまう)と思っています。ただし、安全な(より危険が少ないと言った方が良いかもしれません)原子炉なら。ところが大震災の後、圧力が上がりすぎると働かなくなる蒸気逃がし弁や、本体より耐震設計が劣る非常用回路など、問題はいろいろ出てきているのに改修の話は全く聞きません。これでは再稼働に対する地元の理解は得られず、電力不足から産業の空洞化がますます進むのではないかと危惧しています。自民党は強引に再稼働を進めるようですが、強引にやると、泥沼になるでしょうね。


堅い本が続いたところで、エンターテイメント系を。

「天地明察」冲方丁

いや、面白い本でした。改暦が単なる暦の改訂だけではなく、それが武士の世で有りながら武断政治から文事政治への大きな流れ、「学問も文化も、武士が担う」という意思表明の改暦です。それが挫折し、最後は公式な援助もなく成し遂げるのですが。映画ではこういう時代の大きな流れがまるで無視され、単なる夫婦愛の話に矮小化されてしまったのが残念です。


「神様のカルテ」2,3 夏川草介

1が文庫本で出たので2を買わずに待っていたら、3が出てしまったので慌てて2を買いにいったらすでに店頭にはなく、2は仕方なしにネットで買いました。この3は、今までとは少し雰囲気が変わりました。今までは患者に寄り添う医師がテーマだったのですが、3は患者に寄り添いながら、いかに最先端の知識と技術を追っていくか、という話になっています。主役の一止医師は大学病院に勤務先を変えることになりますが、これからどうなるのか、期待半分、不安半分というところです。


「スリジエセンター1991」海堂尊
「ケルベロスの肖像」海堂尊

帯によると、「ケルベロス」はバチスタシリーズの完結編、「スリジエ」はブラックペアンシリーズの完結編とのことです。どちらも、読んでいて飽きさせないところは、見事です。海堂尊の描く世界で一番未来にあるのは(今のところ)「医学のたまご」ですが、「ケルベロス」と「たまご」の間はまだ時間差があるので、この間の作品が期待できそうです。


「サイボーグ009完結編」石ノ森章太郎/小野寺丈

石ノ森章太郎が何回も挑んでついに未完に終わった、「神々との戦い」編の完結版です。これから漫画(石ノ森氏の表現によると、萬画)化するとのことですが、先に小説として文庫が3冊出ました。これも出たばかりというのに、店頭では手に入らなかったものです。これは詳しく書くとネタバレになってしまいますが、最後のエピローグの一見ハッピーエンドのようなシーン、これは戦いに勝った結果なのか、負けた結果なのか、それとも勝っても負けても結果は同じだったのか、気になるところではあります。


来年もまた本の山が増えるだろうなあ。

2011/08/16

読んで楽しむ のだめカンタービレの音楽会

2011年8月16日

一昨日、所用で新宿に出かけました。場所は新宿の西口、少し早めに着いたので、本屋にふらりと立ち寄りました。ここはクラシック音楽関係の本が、楽譜も含め、多くそろっています。そこで目にとまったのが、茂木大輔著「読んで楽しむ のだめカンタービレの音楽会」(講談社)。著者の茂木大輔氏はN響の首席オーボエ奏者ですが、「のだめ」のテレビドラマでのクラシック音楽監修で、すっかり有名になってしまいました。

ぱらぱらと本をめくり始めると、最初の方は茂木さんが「のだめ」と出会って驚き、また感動し、二ノ宮知子氏の講談社漫画賞受賞パーティーでご祝儀代わりのオーケストラの演奏をするまで。指揮は茂木さんです。立ち読みを始めたら面白くてどんどん引き込まれ、このままだと一冊全部読んでしまいそうになったので、本を持って会計に行きました。最近は置き場所が無くなってきたため、本を買うことを極力減らすようにしています。そのため、写真のきれいな「りんご電車とその仲間たち」(交友社)も買っていません。でもこの誘惑には勝てませんでした。


さて家に帰って読み始めると、これは面白いです。「のだめ」のドラマで黒木君のオーボエをやったN響の池田昭子さんが、本物の「のだめ」(リアル・のだめ)に会ったら感激して泣き出すほどののだめファンというのも面白かったです。なお池田昭子さんは茂木さんの同僚(後輩)ということもあり、良く登場してきます。池田ファンとしては、うれしい限りです。余談ですが先日見た雑誌で、指揮者のブロムシュテット氏が池田さんを絶賛していました。またまた余談ですが、池田さんはイングリッシュ・ホルンの名手でもあり、ソロが多くあります。池田さんのソロの時、同じステージに乗っていれば茂木さんは左手で音の出ない拍手を送っています。こういうのはサントリーホールのRAかRBからだとよく見えます。

茂木さんは、二ノ宮知子氏の楽器描写の正確さに驚いていましたが、正確さのあまり楽器の型式まで判ってしまうようで、「いつも同じ型式のホルン」という突っ込みが入ったそうです。「のだめ」第6巻の表紙はホルンですが、ヤマハのYHR-567のようで、中のシーンに出てくるホルンも、確かに同じ型式のようです。ところが突っ込みがあった後、第21巻に出てくるホルンはアレキサンダーの103のようです。突っ込む方も突っ込む方なら、書き分ける方もまたすごいです。

「のだめ」をまた1巻から読み返したくなり、引っ張り出しました。どうする、休みは今日までなのに!
おまけに今日は今から、サントリーホールに出かけます。

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